第1話

 同じ時刻、同じ車両、同じ座席。  電車で通学や通勤をしていると、毎朝だいたい同じ人間の顔を見ることになる。言葉を交わしたことがなくとも、いつも見ている顔だと、知り合いのような気持ちになったりもする――。  今朝も自宅か…

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第2話

 白い半袖ワイシャツ、紺色っぽい青のスカート。黒に近い紺色のソックスに革靴を履いた女子高生は、メガネくんのすぐ横――進行方向左側のドアから乗車して、メガネくんの目の前に立った。左手に茶色い通学用カバンを持ったまま、右手でつり革を握っている。 …

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第3話

 電車は絹田(きぬた)駅を出発してから三番目の駅――豊川台(とよかわだい)駅に到着した。  チャパバアとは目を合わせないようにしながら座席を立ち、将則はメガネくんの横のドアからそっと降りた。あの子はまだ降りないようだ。あの子の後ろを通り…

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第4話

 朝練が終わると、教室に入って授業を受けることになる。だが将則はその時間をほとんど寝て過ごす。机に突っ伏して涎(よだれ)を垂らし、ときにはワイルドな寝(ね)っ屁(ぺ)もかました。  勉強が苦手で試験のたびに赤点を量産する将則は、クラス担…

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第5話

 将則が電車内の〝人間観察〟にハマり出したのは、一年生の秋だった。  その頃は、ラグビーをするため、というよりも、先輩たちの顔色を窺(うかが)うためだけに高校へ通っているような毎日を延々と繰り返していた。休み時間のたびに先輩に呼び出され…

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第6話

 馬頭敷駅で降りる乗客はいなかった。  乗車口の前に並んでいた人たちが乗ってくる。  一番前に並んでいたあの子は、最初に入ってきた。  透けるように肌の色が白く、少しだけ目が細い。細いがやさしい感じのする目だった。あまり自己…

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第7話

 電車が深井セントラルパーク駅に到着した。  降りる乗客はほとんどいない。  乗ってくる人は多い。  いつもと同じだ。  車内の人口密度はかなり上がったが、新聞オヤジは相変わらず微動だにせず、新聞を全開に広げている。 …

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第8話

 翌日。  絹田駅でいつもの電車に乗り込んだ将則は、ドアから入ってすぐ左の定位置にエナメルバッグを置き、自分はその隣に座った――一人で二人分の座席をキープした。  いつもなら手すりの横棒にかける右肘を、今日は自分のエナメルバッグの…

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第9話

 次の日も将則は、絹田駅で二人分の座席を確保し、発車のときを迎えた。  あの子はまた隣に座ってくれるだろうか、という不安と、ひょっとしたらあの子と仲良くなれるかもしれない、という希望的妄想に支配され、右足の貧乏ゆすりが止まらなかった。 …

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